ご一緒にヨガ哲学を楽しみましょう♪
ヨガの古典文献と聞くと何を思い浮かべますか?

やっぱり、ヨーガ・スートラかなぁ…?
そうです、そうです。ヨガの古典と言えば、ヨーガ・スートラ。
ヨガの哲学をかじったり、ヨガインストラクターになるお勉強をした方なら、必ずその名前は知っているでしょう。
読んだ方もいらっしゃるかもしれません。
パタンジャリさんが編纂したラージャ・ヨーガの根本経典です。
もう少し詳しい方はバガヴァッド・ギータやハタ・ヨーガ・プラディピカー等もご存じかもしれません。
バガヴァッドギータはカルマ・ヨーガ、バクティ・ヨーガ、ジュニャーナ・ヨーガが学べる物語、そしてハタ・ヨーガ・プラディピカーは現在みなさまおなじみのハタヨガの実践テキストです。
でも、今回ご紹介するのは、この三つのどれでもありません。
今まで日本語で一般向けには公開されてこなかったYoga Bija(ヨーガ・ビージャ)という書物です。
Yoga Bijaとは
分かりやすくそれぞれの経典を例えてみると
『ヨーガ・スートラ』は、ヨーガ哲学の全体像を示す「設計図」。
『バガヴァッド・ギーター』は、日々の生活の中でどう実践するかを示す「人生の航海図」。
『ハタ・ヨーガ・プラディーピカー』は、様々な技法を整理・体系化した「公式テキストブック」。
だとすれば、『ヨーガ・ビージャ』は、「伝説のマスターが遺した、工房の秘密のノート」のような存在です!

ちょっとワクワクしませんか?
今までこのヨーガ・ビージャ、一般的に日本語には訳されて来ませんでした。
だから、英語が読めない私には気になってても読めない一冊。
この度、サンスクリット原文を見つけました!ここから読んでいます↓
訳して読んでみる事にしました。
別に英語を訳せばいいじゃん!と思うかもしれません。
でも、誰かが原典を訳したものを更に訳すと捻じれが大きくなる可能性があります。
最初に訳した人のフィルター→私のフィルターと原典から二枚のフィルターが入ってしまうので。
せっかくサンスクリット原典がそこにあるなら、サンスクリット語を訳そう!と言う思いにかられてしまったのです。
もしかしたら、日本のどこかに私と同じようにヨーガ・ビージャに興味を持つ方がいらっしゃるかもしれない。
そんな方のお役に立てるかも…との思いから、190節全訳と解説を記録として残していくことにします。
Yoga Bijaの誕生
ヨーガ・ビージャはハタ・ヨガの経典です。
ハタ・ヨガの経典として有名なハタ・ヨーガ・プラディピカー(15世紀頃)より古い13世紀頃か、ほぼ同時代(14世紀頃)に成立したとされています。
私たちが現在行っているハタ・ヨガの教えが体系化されている、初期の非常に重要な文献です。
後世の多くのハタ・ヨガ文献に影響を与えた源流の一つとされています。
ヨーガ・ビージャが書かれた当時、インドの思想界では
「ヨーガの完成の為には、ギャーナ(知識・智慧)だけで十分だ。苦しい身体的な実践は不要だ!」
というヴェーダーンタ哲学的な考え方が主流でした。
それに対して
「ヨーガの実践なくして、どうしてギャーナがヨーガの完成をもたらすだろうか?」
と力強く問いかけたのがヨーガ・ビージャです。
身体と呼吸を用いた実践(ハタ・ヨガ)の絶対的な必要性を説きました。
これは、この経典の非常にユニークで重要な思想的立ち位置です。
ハタ・ヨガの開祖はゴーラクシャナータとされていますが、そのゴーラクシャナータの教えを大切に引き継ぐ人々=ナータ派の方々にとって非常に大切な文献とされてきました。
ナータ派にとってこのヨーガ・ビージャはキリスト教で言うところのバイブルのような存在です。
また、ナータ派の方々以外にもインドでは熱心なヨーギーたちが、その源流を学ぶために参照する、専門的で奥深い経典として扱われています。
両極性の網から逃れたい
ここで私がなぜヨーガ・ビージャに興味を持ったのかを少しお話します。
もう、思い返すと15年近く前の話。
ヨガを学んでいた私は、ヨーガ・ビージャの一節に出会います。
dvandvajāla
ヨーガ・ビージャに書かれたヨガの定義です。
直訳すると
両極性の網
とっても分かりやすい言葉で言うと
好き嫌いの囚われ
です。
これは、両極性の事を言っているので、好き嫌い、だけの話ではありません。
寒い暑い、良い悪い、高い低い、早い遅い、快不快…etc
人間は常に相反する二つの中で揺れています。
この両極の網にひっかかって抜け出せないで苦しんでいるのです。
その網から出ること→好き嫌いの囚われから解放されること
それがヨガです。

まーさーにーそれーーー!!
私はヨーガ・ビージャと言う経典に興味を持った瞬間でした。
The Yoga Bijam
もし、ヨーガの神様であるシヴァ神に、直接その教えを乞うことができるとしたら、あなたは何を尋ねますか?
古代の経典『ヨーガ・ビージャ』は、まさに女神が私たちの代わりに、ヨーガの始祖であるシヴァ神(アディナータ)に
と問いかけることから始まる、対話形式で書かれています。
この書物は、単なる哲学問答ではありません。
『ヨーガ・スートラ』がヨーガの「哲学の地図」だとすれば、『ヨーガ・ビージャ』は、その地図を旅するための「秘伝のコンパス」
「心の静けさ」というゴールだけでなく、そこに至るための「身体と呼吸」という乗り物の扱い方を具体的に説く、ハタ・ヨーガの源流となる、実践的な知恵に満ちた一冊なのです。

さっそく、ご一緒に覗いていきましょう♪
1節
śrī devy uvāca
聖なる女神が言った
namas te ādināthāya viśvanāthāya te namaḥ |
namas te viśvarūpāya viśvātītāya te namaḥ || 1 ||
宇宙のすべてを包みこむ大いなる存在よ。
あなたの知恵と力は、この世界の内にも外にも満ちています。
2節
utpattisthitisaṃhārakāriṇe kleṣahāriṇe |
namas te devadeveśa namas te paramātmane || 2 ||
宇宙の創造・維持・破壊を司るお方、
あらゆる苦悩を取り除くお方、
神々の中の至高の神、究極の魂よ、
あなたに深く礼拝を捧げます。
3節
yogamārgakṛte tubhyaṃ mahāyogeśvarāya te |
namas te paripūrṇāya jagadānandahetave || 3 ||
ヨーガの道を開き、私たちを喜びと安らぎへといざなうお方に、深く感謝を捧げます。
その喜びは、内側から湧きあがり、心と体を超えて広がっていきます。

賛辞はパパッと飛ばしましょう~~
やっと女神の質問に入ります。
4節
sarve jīvāḥ sukhair duḥkhair māyājālena veṣṭitāḥ |
teṣāṃ muktiḥ kathaṃ deva kṛpayā vada śaṅkara || 4 ||
人は皆、嬉しいこともつらいことも味わいながら、
見えない幻想の糸に包まれて生きています。
その糸から自由になる道を、どうかやさしく教えてください。
シャンカラよ、あなたのあたたかな心で。
5節
nānāmārgās tvayā deva kathitās tu maheśvara |
adhunā mokṣadaṃ mārgaṃ brūhi yogavidāṃvaram || 5 |
偉大なる神シヴァよ、これまであなたは数えきれないほどの道を示してくださいました。
では今、私たちを本当の自由へと導く、その道を教えてください。ヨーガの真髄を知るお方よ。
続きは次回のお楽しみ。
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